父が末期がんを患い、自分の最後を悟った時、入院していた病院の病床で遺言を書いてくれました。その目的は、父の故郷にある父名義の土地を、家を継いでくれている従兄のお兄ちゃんに遺贈したいということでした。
私はその時、父に提案したんです。「その土地は従兄に、そして残りの全ての財産は妻に」という内容にしたらどうかと。父はその提案を受け入れ、その内容で遺言を書いてくれました。
家族の愛が詰まった遺言
父が亡くなり、お葬式も終わり、私が預かっていた遺言を母と妹と私の 3 人揃って家庭裁判所に検認をもらいに行きました。
遺言の内容は、私が提案した通りのものでした。父が最後の力を振り絞って書いてくれた文字は、達筆ではないけれど、父らしい丁寧で読みやすい筆跡で、家族への愛と、親戚を含めてみんなで仲良く暮らしてほしいという父の思いが強く伝わってきました。
円満相続の鍵は「主張しない」こと
ありがたいことに、妹もその遺言の内容を承諾してくれました。そして、妹の夫も私の夫も、妹や私が財産を受け取るべきだと意見することもなく、円満に父の思い通りに相続が進みました。故郷の土地は従兄に、自宅の土地建物と、父が楽しみで運用していた上場株式、そしていくらかの預金は全て母の名義に変更しました。
母はある人から「相続は必ずもめる」と聞いたようで、それに対して「うちはそんなことない。父の相続の時も娘と娘たちは受け取らず私が全部もらったから、私が亡くなった時ももめずに相続できる」と、嬉しそうに話していました。それでも、「みんなそう言うけれど、必ずもめる」と言い返されて憤慨していましたね。
「損して得取れ」の精神で家族を守る

「DV は連鎖する」と警告されていますが、どこかでその連鎖を断ち切ることが必要だと聞きます。相続も同じことが言えるのではないでしょうか。兄弟間で争っている様子を見た子供たちは、それが自分の権利を主張することが正しいことだと勘違いし、同じ道を選んでしまうかもしれません。
「損して得取れ」──自分が相続で遺産を受け取る立場になった時、権利を主張して結果的に家族間・親戚間の付き合いが断絶して寂しい思いをするよりも、一周忌・三回忌・七回忌と家族が故人を偲び集まり、その様子を自分たちの子供に見せることの方が、どんなに大切なことかと思います。
父の相続で、母が従兄に遺贈した土地以外の財産を全て受け取ってくれて本当に良かったと思っています。それが理由かどうかはわかりませんが、私たちの年代の人が親の介護で時間を取られているのに比べて、今の母には介護の必要がなく、私は自分の好きな時間を使うことができています。円満な相続は、親だけでなく、その後の家族の生活にも良い影響を与えると実感しています。
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